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大阪高等裁判所 昭和31年(く)53号 決定 1956年10月31日

本籍 舞鶴市○○町○十○番地の○

住居 同所

現住所 ○○市大字○○○百○番地○○少年院内

少年 無職 谷原利一(仮名) 昭和十三年十一月十七日生

抗告人 少年

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告理由は、

一、私は少年院送致になるような事件はやつていない。

二、家の方でも私を引取るといつている。

三、現在試験観察中のものでさえそうなつていないのに自分は試験観察中でもないのであるから不服である。

四、家が遠いので迎えに来られなかつた。それで少年院送致にするとは不服である。

五、審判官は私が真面目に更生するということを全然認めて呉れず簡単に処置せられたのは不服である。

というのである。

しかし右少年の非行事実は原決定摘示とおり窃盗未遂であり、尚記録によれば、少年には既に九回に亘り窃盗、家出、傷害等の非行歴があつて少年院送致になつたこともあり、昭和三十一年八月には父である保護者の保護が適当でないと認められて、京都保護観察所より京都市○○区○○路○○条下る○○の家T寮に収容せられ保護観察を受けていたところ、同年九月十四日京都保護観察所において、親許に帰るよう指示せられ汽車賃の割引券と現金の供与を受け同観察所を出たけれども、親許に帰らないで本件非行に及んだものであることが認められるから、このことに基き中等少年院送致とした原決定には何等法令違反もなく、右処分を不当のものとも認められない。

よつて本件抗告は理由なきものとし、少年法第三十三条第一項により主文のとおりの決定をしたのである。

(裁判長判事 岡利裕 判事 国政真男 判事 石丸弘衛)

別紙(原審の保護処分決定)

少年 谷原利一(仮名) 昭和十三年十一月十七日生 職業なし

本籍 京都府舞鶴市○○町○○の○

住居 不定(元京都市○○区○路○条下ルT寮内)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(事実)

少年は昭和三十一年九月十四日午後六時半頃京都市○京区○○通○○下ル○○町○○四薪炭商M方薪炭倉庫内において客を装い、応待中の同人の隙をうかがい、同人の左手に提げていた現金三、〇〇〇円在中の布製手提袋一個を窃取しようとしたが、同人に気づかれその目的をとげなかつたものである。

(法令の適用)

刑法第二四三条、第二三五条。

(情状)

一、少年は幼時より窃盗を重ね児童相談所、教護院等各施設の収容を受けたがなお素行おさまらずして昭和二十九年六月三十日初等少年院に送致され昭和三十一年一月十六日○少年院を仮退院したものである。

二、その後、京都市内のH寮、K寮等の各施設に寄住し専門機関の補導援助の下に各職場についたが、全く勤労意欲がないためいずれも長続きせず、その間両親の下から二度にわたり現金を持出す等の非行を働き、又本件窃盗に及んだ次第である。

三、保護者は多子貧困で保護監督力は殆んど期待できない。

四、少年の在宅補導に当つた各補導員はいずれも将来について暗い見透しを持つている現況にある。

以上の諸点を勘案するとき、このままの状態では再犯は必至でありこの際徹底的な矯正教育を施すのが相当と思料されるので少年法第二十四条第一項第三号により主文のとおり決定する。

(昭年三一年一〇月一二日京都家庭裁判所裁判官 栗原平八郎)

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